自転車の交通事故の解決の難しさ

自転車の交通事故の難しさ

私が東京家庭裁判所の非常勤裁判官や保険オンブズマンの調停委員として働いていた時、自転車の交通事故を何件も担当しました。その時、「自動車による交通事故よりも、自転車による交通事故のほうが、解決が厄介だ。」と感じました。なぜか?今回のコラムでは、自転車の交通事故の難しさを説明します。

自賠責保険や自動車保険(任意保険)の対象外

自転車が加害者である事故は、自賠責保険や自動車保険(任意保険)の対象外です。これらの保険から賠償を受けることができません。よって、加害者に資産がない場合、被害者は、賠償金を払ってもらえないおそれがあります。泣き寝入りです。

(なお、加害者が個人賠償責任特約に加入していた場合は、そちらの保険から賠償を受けられる可能性があります。詳細については、コラム「自転車事故でも 本当に役立つ個人賠償責任特約」をお読みください。)

自動車保険(任意保険)の示談代行サービスが利用できない

加害者が自動車保険(任意保険)に加入している場合、加害者は、たいてい、自分が加入している自動車保険の示談代行サービスを利用します。つまり、被害者は、加害者本人と示談交渉をするのではなく、加害者の保険会社の担当者と交渉することになります。保険会社の担当者は、交通事故の手続のプロですから、被害者は、とりあえず保険会社の担当者から言われるとおりに手続を進めれば、最低限の賠償金をもらうことはできます。

しかし、自転車が加害者である場合、上述のとおり、自動車保険(任意保険)の対象外ですがら、加害者は、示談代行サービスを利用することができません。よって、被害者は、加害者本人と直接交渉しなくてはいけません。被害者本人と加害者本人、すなわち、交通事故の素人同士で示談交渉をしないといけないのです。お互い、何をどうしたらよいのか分からず、まったく話し合いが進まないことがあります。

後遺障害認定を行ってもらえない

自動車事故では、被害者の後遺障害について、損害保険料率算定機構という公的な第三者機関が、損害調査を行い、後遺障害の認定をします。しかし、自転車事故のように、自動車が関係しない事故については、損害保険料率算定機構の手続を利用することができません。

よって、自転車事故の場合は、身体に残存する症状が後遺障害に該当するのか否か、相当な慰謝料の金額はいくらかといった、非常に難しい医学上・法律上の問題を、当事者間で解決するか、もしくは、訴訟を起こして、裁判所の判断を仰ぐしかありません。あきらめて、泣き寝入りをする被害者も多いのではないかと思います。

過失割合の判断が難しい

自動車事故の場合、裁判所の膨大な判例の蓄積があり、事故態様ごとに過失割合が類型化されています。例えば、車の単純な追突事故の場合は、追突されたほうの過失は0割で、追突したほうの過失は10割といった具合です。

しかし、自転車事故の場合、そのような判例の蓄積・類型化が十分ではなく、過失割合についてもめるケースが多いです。

加害者が賠償金額について納得できないことが多い

自転車対歩行者の交通事故の場合、歩行者の怪我が重大になることは稀ではありません。死亡したケースもニュースで見聞きします。損害賠償の金額が、数千万円になることも珍しくありません。「自動車ならまだしも、たかが自転車の事故で….」と、加害者が納得できずに、賠償金額でもめることが多いです。

交通事故紛争処理センターを利用できない

よく利用される民間の交通事故の紛争解決の制度として、公益財団法人交通事故紛争処理センターの和解の斡旋があります。しかし、自転車事故のように、自動車が関係しない交通事故については、同センターの和解の斡旋の制度を利用することができません。

躊躇せず、御相談にいらしてください

「たかが自転車の事故について、弁護士に相談するのは大袈裟かなあ。」と躊躇なさっている方も多いと思います。しかし、このコラムで説明しましたとおり、紛争解決という観点からは、自転車の事故のほうが、自動車の事故よりも厄介なのです。躊躇なさらず、お気軽にご相談にいらしてください。