死亡とともに預貯金が凍結される!
相続の際の問題の一つに、銀行は、預金者がお亡くなりになったことを知ると、その方の預貯金を凍結します。そうすると、遺族といえども、遺産分割協議が終わるまでは(または遺言書がある場合は遺言が執行されるまでは)その方の預貯金を引き出せなくなってしまいます。
遺産分割協議は、長引くと1年以上かかることも珍しくありません。その間、「葬儀代がひきだせない!」「相続税が払えない!」という話はよく聞きます。
民法の改正によって、一定額の預貯金を引き出せるようになりました
民法が平成30年に改正されて、新設された民法909条の2により、遺産分割協議前でも、一定額の預貯金を引き出すことができるようになりました。
150万円を上限として、各銀行ごとに、(預貯金額)×1/3×(法定相続分)の金額を引き出すことができるようになりました。例えば、お父さんが早くに亡くなり、最近、お母さんが亡くなって、相続人は長女と長男の二人で、お母さんがA銀行に1200万円、B銀行に300万円の預金を持っていたというケースで、長男がいくら銀行から引き出せるかを考えてみます。
まず、A銀行では、1200万円×1/3×1/2(=長男の法定相続分)=200万円という計算になりますが、上限が150万円ですので、長男はA銀行から150万円を引き出すことができます。
次に、B銀行では、300万円×1/3×1/2=50万円という計算になり、上限の範囲内ですので、50万円を引き出すことができます。
したがって、長男はA銀行から150万円、B銀行から50万円を引き出すことができ、合計200万円を遺産分割協議前に手にすることができます。
実際にやってみました!
私は、最近(令和6年2月)、依頼者から頼まれて、練馬区内の銀行でこの手続きを行いました。
まず、銀行に電話で、「民法909条の2の仮払いの手続きをしたいのですが、必要な書類を教えてください。」と問い合わせました。最初に電話に出た銀行員の方は、「申し訳ございません。その手続きについて調べますので、のちほど折返しご連絡差し上げます。」とお答えになりました。そのあと、副支店長から私に電話があり、「実は、当支店では、民法909条の2の仮払いの手続きのお申し込みがありましたのは初めてでして、本店に確認しながら御対応させていただきます。」という丁寧な御回答がありました。
その銀行から請求された書類は、お亡くなりになった方の除籍謄本、お亡くなりになった方と相続人全員の関係が確認できる戸籍謄本、申請者の身分証明書、申請者の印鑑登録証明書でした。弁護士に依頼をすれば戸籍の収集はスムーズにいきますが、自分で必要な戸籍を集めるのは少し時間がかかるかも知れません。
必要な書類を提出した後は、すぐに手続きを実行してくださり、円滑に仮払いを受けることができました。しかし、せっかく新設された仮払いの制度が、まだまだ一般に知られていなくて、利用されていないのは、とてももったいない気がしました。